砂の女
「砂の女」を観た。
安部公房の同名の小説が原作。ケラリーノ・サンドロヴィッチさん台本・演出。主演は緒川たまきさんと仲村トオルさん。
「砂の女」のあらすじは、短い休暇を利用し、海辺の砂丘に昆虫採集にやって来た男が、一人の女が住む砂穴の家に閉じ込められ、様々な手段で脱出を試みる。しかし男は、砂の世界からの逃亡と失敗を繰り返すうちに砂の生活に順応し、脱出の機会が訪れても逃げなくなってしまう、というストーリーだ。
小さなころから今に至るまで、読書量が極端に少ないワタクシ。もちろん、原作を読んだことはない。それが近代日本文学を代表する傑作だとしても、読んだことはない。この舞台で、初めてこの物語の世界に入った。
というかこの舞台、没入感が尋常じゃない。否応なしに自分も砂の世界に入れられてしまう。身体には砂がまとわりついて、カサカサするようなかゆさといがらっぽさ。のどの渇き。髪の毛に砂が混じって、頭を掻きむしりたくなる衝動・・・。そういう感覚に陥ってしまうほどに巧みなプロジェクション・マッピングと音響効果。どうやって、動きと音・映像のタイミングを合わせているのだろう。物語の世界にすっかり取り込まれてしまった。舞台とは、現実と虚構の壁、時間、空間、、、いろんなものを一瞬で飛び越えて、その世界に連れて行ってくれるとんでもない装置だと知った。舞台を鑑賞していたその時間、ワタクシは確かに異空間にいた。
異空間にふんわりと浮かぶような上野洋子さんの生歌、生演奏もとても素敵だった。ミステリアスで異質な存在感。異空間へいざなう使者のようだ。
明かりが入らない暗がりの中、蟻地獄に落ちてしまった蟻になったように、男と女の行動変化を追いかける。緒川たまきさんが演じる砂穴に暮らす女は絶妙な色気があった。あからさまじゃなくてにおい立つようなヤバさ。蛇みたいにそっと忍び寄って、しっとりと絡みつく感じ。情事はセックスというよりは濃厚なダンスの様で、とてもエロかった。そうかと思えば少女のように無邪気な表情もあって、とても素敵だった。
ラジオにうっとりする女と、罠を張ってカラスを捕まえようとする男がとても人間らしく思えた。
我ながら、すごい体験をしたと思う。
☆☆☆☆☆