まるごとみんご

エンタメ大好きみんごが繰り広げる何気ない日常生活

藪原検校

藪原検校」を観た。

 

 

タイトルの「藪原検校」は「やぶはらけんぎょう」と読むのだが、主人公の男の役職名でもある。稀代の悪党として名をはせた、生まれながらに目が見えない男の一代記だ。

 

大人のわりにモノを知らないワタクシは、何の予備知識もないままにこのお芝居を見に行ったのだが、検校は「中世・近世日本の盲官(盲人の役職)の最高位の名称」であるらしい。ウィキペディアによれば、盲官には他に、位の順に別当、勾当、座頭などがあるらしい。その盲官のトップに君臨するのが検校で、この舞台では高貴な紫の衣装を身にまとい、頭巾をかぶり、高価な杖を持つことを許されていた。

 

このお芝居は、生まれながらに目が見えず、さらに父譲りの性悪と、母譲りの見た目の悪さ、両親の悪いところを濃縮して生まれついたという筋金入りの悲惨な設定の男が、悪知恵、話芸の才能、エロの才能などを活かしつつ、血で手を染めつつ、2度も師匠殺しをしでかして、検校として盲官のトップに上り詰め、死ぬまでの話だ。

 

辛辣を煮詰めたような話なので、当然観ていていい気分がいいものではないのだが、引き付けられる舞台だった。ワタクシ的ハイライトは3つあった。

 

一つ目は、市川猿之助さんが演じる杉の市(藪原検校になる前の名前)の劇中劇の場面。一つの物語(演目)を、狂言、歌舞伎、浄瑠璃、謡(このあたりはワタクシの記憶によるあいまいなもので、正確な表現ではない可能性が高い)といった様々な古典芸能の語り口を織り交ぜ、矢継ぎ早に展開していくというシーンがあるのだが、その膨大なセリフの量と流暢な語り口に、ひたすら圧倒される。あまりのセリフが長いのと、「立て板に水」の上を行く早口っぷり、さらには古典芸能独特の言い回しに、途中内容を理解するのを諦めた。終盤気を取り直してよく聞いていると、めっちゃばかばかしくて笑える話ではないか!その時になって、中盤もちゃんと集中して聞いておけばよかった・・・と激しく後悔した。

 

二つ目は、杉の市(市川猿之助さん)とお市の濡れ場。杉の市が師事する琴の市(盲目の座頭)の女房、お市松雪泰子さん)と通じる場面だ。琴の市の目が見えないのを良いことに、お市が琴の市に「安寿と厨子王」の話を語り聞かせながら、実は杉の市と交わっている場面。歌うような、喘ぐようなお市さんの発声と仕草が妖艶で、思わず生つばゴクリ・・・・。ただならぬ色気と艶めかしさだった。

 

三つ目は、最後のシーン。藪原検校は処刑されるのだが、それを役人に進言する塙保己市(はなわほきいち/三宅健さん)のシーンだ。塙保己市も藪原検校と同じく検校の身分なのだが、悪行を積み上げ金に物を言わせて検校の地位を手に入れた藪原検校とは対照的に、品格を旨とし、知性や清廉さで検校の座に就いた清い検校だ。保己市と藪原検校は、己の考え方を語り合ったことがある間柄。考え方こそ違えど、目が見える人に馬鹿にされたくない、軽んじられたくない!心の底にあるその強い思いは共通しているように見えた。その保己市があっさりと、実に淡々とした口調で藪原検校の処刑を進言するシーンは鳥肌が立ったし、さらにその処刑法が恐ろしく残忍で背筋が凍った。

 

最後の最後で、難解な善と悪を突き付けられた。

否が応にも、考え続けることを強られるようなラストだった。

 

☆☆☆☆